実態調査で分かった「音の大問題」を考察
新常態におけるテレワーク
※本ブログは、日経BPの許可により2021年6月16日公開の日経ビジネス電子版SPECIALから一部抜粋しています。禁無断転載。
音響機器メーカーのシュア・ジャパンが大企業の1000人に行った実態調査によれば、オンライン会議で直面したトラブルトップ5のうち、トップ3までが「音」に関する問題だった。「発言のタイミングがつかみにくい(38%)」、「部分的に聞こえなくなる(36%)」、「音声が聞き取りにくい(34%)」だ。
これでは参加者の不満やストレスは溜まるいっぽうだ。映像障害であれば音声でカバーできるし、仮に子供が映り込んでしまったとしても笑いにできる。だが、音声障害はそうはいかない。ほぼ100%ネガティブに捉えられる。ましてや、VIPとの商談、決算発表会などの重要な場であれば、音声品質はビジネスそのものに直結する。
日本マイクロソフト 業務執行役員・エバンジェリストの西脇資哲氏によれば、新製品発表会の音に問題があると、新製品や会社の印象まで悪くなるという。重要なメッセージを相手に確実に届けるために最も必要なのは高品質な音声であり、「オーディオ・ファースト」が大事と語る。クリアで安定した音への投資が、従業員満足度や企業競争力を左右する時代なのかもしれない。
そこで本稿は、シュア・ジャパンのインテグレーテッド・システムズ ディレクターである大友裕己氏と、ビジネス・プレゼンテーションのカリスマとして定評のある日本マイクロソフトの西脇氏による緊急対談を企画。企業間の音声コミュニケーションの大問題とは何か。そしてその解決法とは。新たな潮流を読み解く。
西脇 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2020年2月ごろから各社が一斉にテレワークに向けて動き出しました。最初は品質や環境などお構いなしで、とにかくテレワークの環境を整えることに必死になっていた企業が多いと思います。
ところが10月ごろになると、急ごしらえで始めたテレワーク環境を見直し、設備や仕組みを業務効率の高いものに改善する動きが始まりました。
コロナ禍がテレワーク普及の大きなきっかけになったのは事実ですが、私が一つ申し上げておきたいことは、テレワークはそもそも企業の生産性向上に欠かせない働き方としてコロナ禍以前から推奨されていたという事実です。日本テレワーク協会が発足したのは2000年。2011年には東日本大震災が起き、電力需要のひっ迫を懸念した政府がテレワークを推奨しています。2013年には政府が世界最先端国家IT創造宣言を出し、2016年にはテレワークの数字目標まで掲げています。本来であれば、コロナ禍以前にテレワークは普及しているはずでした。
日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト・業務執行役員 西脇 資哲 氏
シュア・ジャパン株式会社 インテグレーテッド・システムズ ディレクター 大友 裕己 氏
大友 私もコロナ禍以前からテレワークにおける音響の重要性を訴えてきたのですが、なかなか実感してもらえませんでした。カラオケなら音が良い方が断然良い。それはわかるけど、なぜ会議室に高音質が必要なのかとよく言われたものです。
しかし、コロナ禍でテレワークが普及してから、当社への問い合わせが増え始めました。西脇さんがご指摘になった、2020年10月ごろからは更に急増しています。会議室や自宅の音質が悪いため、テレワークやオンライン会議の生産性が下がっているという相談が主です。テレワークを体験する中で多くの企業が音響の重要性を認識し、音響機器への投資が生産性向上に欠かせないことを理解し始めたように思います。
大友 2020年12月、当社では従業員1000人以上の国内企業に勤めている1000人を対象に、オンライン会議の意識調査を実施しました。そこでいくつか重要なことがわかっています。
まず、この時点で85%がすでにオンライン会議を日常的に使用していました。オンライン会議中に発生したトラブルについて聞いたところ、トップ5は「発言のタイミングがつかみにくい(38%)」「部分的に聞こえなくなる(36%)」「音声の聞き取りがしにくい(34%)」「相手の表情がわからない/わかりにくい(32%)」「接続がうまくできない、途中で切れてしまう(30%)」。つまり、トップ5のうちトップ3までが音に関する問題だったのです。
音響に関するトラブルは発生頻度が高いにも関わらず、その事実をシステムの管理者に報告したり相談したりしている人は全体の25%しかいませんでした。つまり、改善へのプロセスは進んでいない状況です。
西脇 その調査結果は、私の感覚とも合致しますね。昨年から今年にかけて、私が登壇する多くのセミナーやイベントが、オンラインまたはオンラインと対面のハイブリッドになっています。重要なメッセージを相手に確実に届けるために最も必要なのは、高品質なオーディオです。私は「オーディオ・ファースト」と言っています。
例えば自宅からオンライン会議に入るとき、間違えてパジャマのまま画面に登場してしまったとしても、大きな問題にはなりません。映像上の失敗は、むしろ笑いを誘うポジティブな出来事にもなり得ます。しかし、オーディオはどうでしょうか。例えば、音声が途中で切れてセミナーの後半が聞こえなかったとなれば、これは笑えません。重大な過失です。オンラインのコミュニケーションにおいて、オーディオの失敗は100%ネガティブな問題になってしまうのです。
オンライン会議で最も重要なのは、まずオーディオの品質を確保することです。そのベースがしっかりしているからこそ、そのうえで映像やプレゼン資料、オンラインアンケートなどの仕組みが有効に機能するわけです。
企業が決算発表や事業説明会をオンラインで行う場合、聞き手は知らず知らずのうちにYouTubeやNetflixのような高品質な動画配信と比較してしまいます。オーディオの品質が悪いと会社の業績や製品まで悪いかのように感じられてしまう。だからこそ、企業は音響や映像に詳しい専門メーカーの知恵を借りながら、オンライン・コミュニケーションの環境をしっかりと整備するべき時代に来ていると思います。
大友 当社の大きなお客様には、音楽業界や放送局など、音響のプロがいます。音声が一瞬でも途切れたら大失敗とされるシビアな世界です。一般企業でも、オンラインによるコミュニケーションが普及していく中で、これと似た状況になりつつあります。重要な会議、大切なお客様との商談、記者発表会やセミナーなど、オンラインによるコミュニケーションが企業活動の成果を左右する時代になり、音や映像への投資が企業競争力につながるようになっていると感じます。
西脇 今後は、従業員が健康かつ安全に仕事ができる空間作りが必要になります。マイクロソフトもそれを進めています。対面とオンラインがハイブリッドな環境で、しっかりとコミュニケーションするための設備投資が必要になります。
そのリーダーシップを取るべきは、経営のトップです。社長はまず「なんで私のメッセージが従業員全員にクリアに届かないのか」「お客様にメッセージがきれいに届かなくてどうする?」と社員に問うべきです。それを受けて人事部門やIT部門が整備を進めていけば、望ましい環境を構築できるでしょう。
大友 会議室のサイズ、参加人数、テーブルのレイアウト、その空間の目的(プレゼンテーションかオンライン会議か、など)によって、最適な音響や映像の設備が変わってきます。マイクやスピーカー、そしてミキサーや信号処理機器がしっかり連携して機能するためのシステム統合が非常に重要であり、それを誰でも容易に使える操作性を確保することがさらに重要です。
これを実現するため、当社は二つのことに注力しています。一つは、パートナー企業とのアライアンスです。オンライン・コミュニケーションのプラットフォーム、例えばマイクロソフトの「Teams」などと深く連携し、当社の製品を公式に動作保証していただいています。もう一つは、音響システムを構築するAVシステムインテグレーターとの連携です。当社製品を活用した快適な会議環境作りを推進しているこうした事業者様を、メーカーとしてしっかりサポートしています。
当社は音響機器メーカーとして100年近い歴史があります。国際的なコンサートやスポーツ、大統領演説など、数々の歴史的な瞬間の声をシュアのマイクロホンを通して届けてきました。高度なテクノロジーとエンジニアリングはもちろん、こうした様々な場面で課題を解決してきたノウハウと経験をグローバルに共有し、日本国内でも安定したサポートを実現しています。
西脇 オンライン会議は、音響こそ肝心だという理解が広まることを期待しています。
大友 当社もその普及に努めていきたいと思います。今日はありがとうございました。
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